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第110回『英国総督 最後の家』

1947年、インド。第二次世界大戦で疲弊した英国は、2世紀近く植民地支配してきたインドの返還を決定。最後の総督としての任務を引き受け、インドのデリーにやってきたルイス・マウントバッテン(ヒュー・ボネビル)。宮殿のように豪華な総督邸宅では、ヒンズー教、イスラム教、シーク教など宗派の異なる500人が、使用人として階下で働く。
一方、ルイスと妻エドウィナ(ジリアン・アンダーソン)ら家族が暮らす2階では、独立後に統一インドを望む多数派と、分離してパキスタンを建国したいムスリムたちとが対立。連日連夜にわたって論議を続けていた。
そんな日々の中、使用人のインド人青年ジート(マニシュ・ダヤル)と令嬢秘書のアーリア(フマー・クレイシー)が、宗派の違いを超えて惹かれ合うが……。

まず申し上げたいのは、宣伝チラシを見た時と、実際に作品を見た時の印象があまりに違ったこと!

夕焼けの豪邸を前に立つ初老の白人夫婦、そして、やや離れて見つめ合う若きインド人男女。一瞬、『ALWAYS 三丁目の夕日』を思い出してしまうような、ほのぼの感さえ漂うチラシからは想像もできない、重厚な内容です。

物語を一言でいうなら、インド・パキスタン分離独立までの6ヶ月間の舞台裏を綴った歴史ドラマ、という感じでしょうか。

本作を見ようと思った動機は、正直、主役のマウントバッテン卿を演じるヒュー・ボネビルのファンだからです。人気TVドラマ『ダウントンアビー』ばりの貴族っぷりも見られるのかな、という淡い期待も(笑)。劇中、平和なインド独立を願い、何とか力になろうと苦悩する姿は、まさに最後の総督にふさわしく、実に満足いくものでした。

ストーリーの中心となるのは、2つ。
1つは邸宅の2階で行われる、独立をめぐる激しい駆け引き、もう1つは、階下での使用人同士の恋愛です。

二人はお互いに惹かれていながらも、宗派が異なることから、なかなか壁を超えることができません。というのも、インドとパキスタンが分離独立してしまうと、別々の国籍となり、一緒に暮らすことができなくなるからです。

二人の描写は、ちょっとクドイかなぁ、と思うところもあったのですが、違う立場、視点から見たら、これでも足りないくらいなのかもしれません。まるでロミオとジュリエットのようで、見ものです。

個人的に、インド独立関連のことは、高校の社会の授業で少しだけ習ったのと、映画『ガンジー』を通じて知ったことくらいで、恥ずかしながら、無知同然。見て良かった、とつくづく感じています。

インド・パキスタンの分離独立の経緯、民族・宗教対立、そして宗主国・英国の思惑…過去の歴史だけではなく、今につながるものも見えてきます。

たまたま先日、インドの公立校の教科書から初代首相ネールの記述が削除されたこと、また、ガンジーの暗殺にも触れていない、などが書かれた新聞記事を読みましたが、ある意味、本作の続きなのかな、と思えてなりません。

本作の冒頭に示される、チャーチルの言葉として知られる「歴史は勝者によって記される」という一文は、非常に意味深!

尚、グリンダ・チャーダ監督は、インドにルーツを持ち、祖父母がこの分離独立の大きな影響を受けたとのこと。本作はフィクションではありますけど、史実に基づくものであり、ファミリーヒストリーに重なるものでもあります。

見どころ多き、芸術の秋にふさわしい作品。
ぜひご覧ください。


『英国総督 最後の家』
2018年8月11日より公開中
■公式サイト
http://eikokusotoku.jp/

2018.9.25 掲載

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