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第108回『犬ヶ島』

近未来の日本。メガ崎市では犬インフルエンザが大流行。小林市長(声:野村訓市)は人への感染を防ぐため、全ての犬をゴミ処理場の島「犬ヶ島」に隔離させる。そんな中、12歳の少年・小林アタリ(声:コーユー・ランキン)は、愛犬スポッツ(声:リーブ・シュレイバー)を取り戻すべく決起。たった1人で小型飛行機を操縦して犬ヶ島へと向かうが…。

全世界で大ヒットし、アカデミー賞最多9部門ノミネート、最多4部門受賞した『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督の最新作。

近未来の日本を舞台に、離島に隔離された愛犬を探す少年と犬たちが繰り広げる冒険を描いたストップモーションアニメです。

変なことを言うようですが、最初に本作を見たとき、猛烈にDVDが欲しくなりました。

というのも、劇中にいろいろな要素が盛り込まれていて、1回見ただけでは、とても掴みきれない、と感じたからです。

何より、細部が実に興味深い。
たとえば、主人公の小林アタリ少年は、宇宙服のような飛行服を着ていますが、よく見ると足元はゲタを履いていたり!
1つ1つ静止画で見たいくらいで(笑)

大きな見どころは、なんといっても「日本」。

近未来の日本が舞台、とのことですが、実際は、かなりレトロな昭和な雰囲気に満ちています。

「懐かしくて、新しい日本」とでも言えばよいでしょうか。全般にわたって、日本文化や映画のオマージュでいっぱい!

たとえば、劇中に流れる音楽も、黒澤明の『七人の侍』の「菊千代のマンボ」や『酔いどれ天使』の「小雨の丘」が出てきたり、主要キャストの小林市長は、三船敏郎にそっくり。

しかし、内容的には、ノスタルジックな日本どころか、現代アメリカを象徴しているかのように思えてきたり、一見シンプルなように見えて、非常に複雑。

表向きは、友情ものやヒーローもののようである一方で、見ようによっては政治的作品にも感じられる。

人間と犬、日本語と英語、大人と子ども、正義と悪、独裁者と市民、ペットと野良犬など、異なる2つの要素がそこかしこで同期するアンダーソン監督の世界観。

見るたびに発見があり、つい分析的に見たくなってしまいますね。やっぱりDVDが必要(笑)

ウェス・アンダーソン監督のことを全く知らなくても、大いに楽しめる作品ですが、監督に興味を持つと、さらに楽しめるでしょう!

第68回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞作。


『犬ヶ島』
2018年5月25日より公開中
■公式サイト
http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/

2018.8.5 掲載

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