まず、個人的に、セザンヌにもゾラにも興味があり、公開を待ち望んでいた作品です。
見た結果、その期待は全く裏切られることはありませんでした。
セザンヌとゾラ、近代フランスを代表する2人の長きにわたる葛藤の日々が、実に見事に描かれています。
芸術家ならではの“生みの苦しみ”はもちろん、親子関係や男女のこと、そして二人の間に生じる微妙な心理。時の経過とともに、お互いの感情にも変化が見られ、それがまた場面場面で、痛いくらいに伝わってくるんですよね。
成功する者と評価されない者の立場の苦しさもありますが、竹馬の友だからこその感情、というものもあり…。人間心理の機微が、絶妙です。
この作品の面白さは、いわゆる伝記的な部分に加え、脚本も書いたダニエル・トンプソン監督の仮説によるところも大きいですね。
一般的には、セザンヌをモデルにしたとされる小説『制作』(1886年)をゾラが発表したことで2人は絶交した、ということになっていますが、監督は、2人がその後もひそかに会っていたと考え、物語を紡ぎました。
このアイデアにロマンがありますし、しかも!
絶好したと考えられていた二人でしたが、「君に会いに行くつもりだ」とセザンヌがソラに書いた書簡が2014年に発見され、サザビーズでオークションにかけられました。トンプソン監督の仮説が現実のものになった、と言えますし、ますますロマンを感じずにはいられません。
それと、「黒い置き時計」、「裁縫をするオルタンス」、「水浴図」など、セザンヌの傑作や創作風景が出てくるのも見どころの1つです。
南仏エクス=アン=プロヴァンスの美しい風景も含め、いろいろな面で楽しめると思います。
芸術の秋にぴったりで、自信を持ってオススメします!
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