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第99回『セザンヌと過ごした時間』

“近代絵画の父”と言われるフランスの画家ポール・セザンヌ(ギヨーム・ガリエンヌ)と文豪エミール・ゾラ(ギヨーム・カネ)の40年にわたる友情を描いた作品。出会いは少年時代に遡る。裕福な家庭で育つセザンヌと、貧しい母子家庭に育ち、いじめに遭っているゾラ。セザンヌがゾラを助けたことから、二人の友情が始まる。芸術を志す2人は、南仏エクス=アン=プロヴァンスの明るい陽光の下、夢を語り合いながら一緒に成長していく。やがて、先にパリに進出したゾラは小説家として成功を収める一方、パリに出て絵を描き始めたセザンヌは落選続きで、なかなか評価されず…。

まず、個人的に、セザンヌにもゾラにも興味があり、公開を待ち望んでいた作品です。
見た結果、その期待は全く裏切られることはありませんでした。

セザンヌとゾラ、近代フランスを代表する2人の長きにわたる葛藤の日々が、実に見事に描かれています。

芸術家ならではの“生みの苦しみ”はもちろん、親子関係や男女のこと、そして二人の間に生じる微妙な心理。時の経過とともに、お互いの感情にも変化が見られ、それがまた場面場面で、痛いくらいに伝わってくるんですよね。

成功する者と評価されない者の立場の苦しさもありますが、竹馬の友だからこその感情、というものもあり…。人間心理の機微が、絶妙です。

この作品の面白さは、いわゆる伝記的な部分に加え、脚本も書いたダニエル・トンプソン監督の仮説によるところも大きいですね。

一般的には、セザンヌをモデルにしたとされる小説『制作』(1886年)をゾラが発表したことで2人は絶交した、ということになっていますが、監督は、2人がその後もひそかに会っていたと考え、物語を紡ぎました。

このアイデアにロマンがありますし、しかも!
絶好したと考えられていた二人でしたが、「君に会いに行くつもりだ」とセザンヌがソラに書いた書簡が2014年に発見され、サザビーズでオークションにかけられました。トンプソン監督の仮説が現実のものになった、と言えますし、ますますロマンを感じずにはいられません。

それと、「黒い置き時計」、「裁縫をするオルタンス」、「水浴図」など、セザンヌの傑作や創作風景が出てくるのも見どころの1つです。

南仏エクス=アン=プロヴァンスの美しい風景も含め、いろいろな面で楽しめると思います。

芸術の秋にぴったりで、自信を持ってオススメします!


『セザンヌと過ごした時間』
2017年9月2日より全国順次公開中
■公式サイト
http://www.cetera.co.jp/cezanne/

2017.10.31 掲載

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