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第96回『怪物はささやく』

窓から教会の墓地が見える家で、難病の母(フェリシティ・ジョーンズ)とともに暮らす少年、コナー(ルイス・マクドゥーガル)。ある晩、イチイの木の姿をした怪物(声:リーアム・ニーソン)が現われる。これからコナーに「3つの物語」を語ること、そして4つ目の物語は、コナー自身が語るように告げる。しかもその内容は、コナーが隠している「真実」でなければならない、という。激しく抵抗するコナーに対し、怪物は夜ごとに同じ時刻に現われて物語を語り始めるが…。

“スペインのアカデミー賞”と言われるゴヤ賞で9部門を受賞した話題のダークファンタジーが、満を持して日本公開!

原作は、カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞を受賞したイギリスの作家パトリック・ネスによる同名の世界的ベストセラー。脚本もネス氏自身で、「永遠のこどもたち」のJ・A・バヨナ監督が実写映画化しました。厳しい現実に直面している孤独な少年が、突然現れた怪物によってどうなるのかが最大の見どころです。

困難な環境におかれた子どもが、架空の動物などの助けを得て、何とか試練に耐え、乗り越えたり、成長していく物語は、 絵本や児童文学で好まれるテーマの1つ。個人的には、ハンガリーの作家マレーク・ベロニカの『ラチとライオン』、イギリスの作家ジョン・バーニンガムの『アルド』などが思い出されます。

弱くて、逃げてばかりいた子どもが、ある日を境にして、だんだん強く、たくましく成長していく姿は、妙に心惹かれるんですよね。

結果がほぼ予想できてしまったとしても、ガッカリすることはなく、それどころか何度でも見たくなる。

人ががんばってる姿に触れることは、スポーツなどの現実の出来事であれ、小説や映画などの架空の世界であれ、大きな元気をもらえます。

本作の主人公の少年が直面している現実、乗り越えねばならないものは、それが大人であっても、かなり過酷なものです。両親の離婚に母親の病気、学校でのいじめ、気の合わない祖母との窮屈な暮らし…。もし自分が同じ境遇に置かれたら、一体どうするだろうか?何ができるだろうか?

少年と怪獣との出来事を見ながら、同時に自分に置き換えて考えてみるのも意義あることかな、と思います。

ちなみに、突如として出現した怪物の姿形には大きな意味があり、「怪物とは何か?」を読み解くのも、本作の醍醐味の1つになるはず。

子どもであれ、大人であれ、自らの置かれた立場によって、大いに感じるところのある作品です。作品を見終えた後の自分を楽しみに、ぜひご覧ください。


『怪物はささやく』
2017年6月9日より公開中
■公式サイト
http://gaga.ne.jp/kaibutsu/

2017.7.25 掲載

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