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第74回   さよなら、アドルフ

1945年、敗戦して間もないドイツ。ナチスの幹部だった両親が消え、14歳の少女ローレ(ザスキア・ローゼンダール)は、幼い妹と弟と一緒に900キロ離れたハンブルクの祖母の家へ向かうことに。終戦を境に何もかも変わってしまったドイツでは、ナチの身内に対する世間の風当たりは冷たく、たとえ子供であっても救いの手を差し伸べる者はいなかった。道中、貼り出された残虐なホロコーストの写真を見たローレは困惑する。翌日、連合軍兵士に呼び止められたローレは、ユダヤ人青年のトーマス(カイ・マリーナ)に助けられるが…。


一夜にして、社会が、価値観が180度変わる。
善と教えられてきたことが、悪に変わる。

このような場面に遭遇した時、
自分はどうなるだろうか?

ナチスに関連する映画は、
これまで数えきれないほど出ていますが、
ナチスの家族のその後を追ったものは珍しいと思います。

自分が今まで信じてきたものが
全てウソとわかったとき、
一体何を、どう信じればよいのか。

両親がいなくなり、
自らの礎となっていた教えすらも崩れ、
しかも、幼い弟や妹を守り、
引っぱっていかねばならない主人公。

その何ともいえない胸中が、
画面から滲み出てきます。

そして、これは
ナチスドイツについての物語であると同時に、
日本の物語である、といっても過言ではありません。

この日本においても、戦中、戦後において
価値観がガラリと転換したわけですから…。

日々の些細な問題であれ、大きな出来事であれ、
物事は、さまざまな角度から見ることで
実像に近づいていきます。

本作は、セリフ以上に、登場人物の表情や動きが
多くを語るところが、大きなポイントですね。
一瞬たりとも目が離せません!

ちなみに、主人公たちがいる黒い森から
ハンブルクまでの900Kmをぼくは移動したことがあります。

もちろん、列車に乗ってですが、長かったですね〜それは。
最高時速320Kmの超特急ICEで6〜7時間くらいかかりました。
歩いて目指そうなんて、とても考えられません。

その距離の長さも、主人公の絶望の深さ、重さを
物語っているような気がします。

第二次大戦のことはもちろん、
自分の生き方についても考えさせられる、
何とも感じるところの多い作品ですね。


2013年アカデミー賞外国語映画賞オーストラリア代表作品
『さよなら、アドルフ』
2014年1月11日より公開中
■公式サイト: http://www.sayonara-adolf.com/

2014.1.24 掲載

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