花田 |
「今回は、一応、その、恋愛相談なんです」 |
本間 |
「あら! 恋愛ですか!」 |
花田 |
「はい。変な話なのですが…。実は、私、男性に触れないんです」 |
本間 |
「あらまあ」 |
花田 |
「厳密に言うと、10カ月前に別れた彼氏以外の男性を、触ることも触られることもできないんです。 ちょっと手を握っただけで、鳥肌が立って、その場から逃げたくなります。1回気持ち悪いと思ったらもうダメ。
そこからは匂いも、目の瞬きさえも気持ち悪くなるんです」 |
本間 |
「ああ、ようするに好きじゃない男性に触られるとゾクッとくるのね」 |
花田 |
「うーん。でも、いい加減に元彼氏への未練を断ち切りたいんで、 自分としては本気で新しい彼氏を探しているんです。でも、ダメ。3〜4人の男性と一緒に出かけたり、食事をしたりしました。
でも、手を握られるだけで気持ち悪く、我慢しても体は正直で涙が出てくるんです。このままだと、元彼氏以外の男性と恋愛も結婚もできず、 一生を終わってしまいます」 |
本間 |
「もうちょっと、その別れた彼氏のことを教えてもらえるかな? どんな人?」 |
花田 |
「変な人でした。ルックスが異様にいいんです。これはノロケとかではなくて、本当に。 だけど、私が初めての彼女だったんです。というのは、彼、おそろしく暗い性格なんです。
高校時代に彼の暗さ(一言もしゃべらない)を知らない他のクラスの女子数人から告白されたらしいんですが、彼がまったく無反応なんで、 あきれて去っていったそうです。ちなみに、私達はロック・バンドのサイトで知り合いました。
メールでお互いのことを理解していったから、無口でもうまくいったんですよね。告白は彼のほうからメールで。 実際、3年間も付き合ったし、結婚も約束していました」 |
本間 |
「別れた原因は?」 |
花田 |
「私の就職活動です。彼は専門学校を卒業してからすんなりと就職が決まったので、私みたいに23歳にもなって30社受けて、
30社落ちている大学生が理解不能だったんでしょうね。私自身もかなりナーバスになって、会ってもケンカばかり。 彼のほうが私に愛想をつかして別れを宣告してきました」 |
本間 |
「ちなみに、別れる時の会話で印象に残っていることってあります?」 |
花田 |
「あー。『もう、君にはうんざりだ!』かな」 |
本間 |
「でも、あなたの方は元彼氏にうんざりしていないの?」 |
花田 |
「はい。あんなに傷ついたにもかかわらず、未練だらけです。もう、麻薬中毒状態です」 |
本間 |
「どうしようねぇ。うーん、選択肢三つ。(1)もう1回よりを戻す。(2)新しい男を探す。(3)一生、1人で過ごす」 |
花田 |
「ああ、それを私も考えたことがあって。(2)の新しい男を探すを選択したんですが…。触られると気持ち悪くなっちゃうんですよね」 |
本間 |
「これはコーチングじゃなくてカウンセリングの世界になっちゃうけど、いろんなやり方もあって、 催眠術で治療することもできるんだよ」 |
花田 |
「へえ、そうなんですか」 |
本間 |
「結局、相手が変態でも不潔なわけでもなく、花田さんの方が悪寒を引き起こす何かを持っているわけでしょ。 実は花田さんが自分の中の何かを守っているわけですよ」
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花田 |
「わかります! 触られた瞬間、自分の中の核みたいなものが動くんですよ」 |
本間 |
「それが問題なわけ。たぶんね、そこの核が開けば、男性に触られたって平気なんですよ」 |
花田 |
「つながっていると言えば、私、小・中学校時代に男の子からイジメにあっていたんです。男の子のイジメって暴力もあるから、 しょっちゅうコブシで殴られたり、石を投げられたり、プールの中に沈められたり。男性の手って私にとっては『武器』のイメージがあったんですよね」 |
本間 |
「うーん。それはかわいそうだ」 |
花田 |
「でも、20代になると、男性の差し出す手が急に優しくなって。びっくりしちゃうんです」 |
本間 |
「あなたのお父さんはどんな人? お父さんのことも触れない?」 |
花田 |
「実は、触れないんです。不潔とか、うっとうしいという意味ではなくて、男性として触れません」 |
本間 |
「お父さんにどんなイメージを持っている?」 |
花田 |
「私に似て『世渡りの下手な人』です。父は今失業中です。でも、失業はこれで3度目。 小さい頃、よく父と一緒にハロー・ワークに行きました。私って、男性に対するいい思い出がありませんね」 |
本間 |
「お父さんと自分の将来について話し合ったことがある?」 |
花田 |
「ありません。私の教育にノー・タッチの人ですから。でも、父からの影響は大きいです。 私は働くなら飲食業かデザイン関係の仕事に就きたいんです。それはやっぱり、父が昔ラーメン屋で、
今はDTP(デスクトップ・パブリッシング)の仕事をしているからだと思います」 |
本間 |
「ちょっと質問したいんだけど、花田さんの一番得意なものって何?」 |
花田 |
「絵を描くことですね。絵は写実的なものから漫画まで、何でも描けるんです」 |
本間 |
「じゃあ、DTPの仕事は自分の才能を生かせるかもしれないね。仕事に関してもっと具体的な希望はある?」 |
花田 |
「正社員になりたいです! 元彼氏は就職が決まらない私に変な優越感を持っていました。 君は大学4年間も行って、留学もしたくせに就職できない。お金もないし、親不孝だって。だから、お給料がアルバイトより低くても正社員になりたい」
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本間 |
「なるほど…。今まで話しててね、花田さんて、今は、ものすごく狭い世界の中で悩んでいると思うんだ」 |
花田 |
「あ! そうなんです! 世間が狭いくせに、世の中全てに幻滅しているんです」 |
本間 |
「その狭い中でゴチャゴチャ嫌なことがあって悩んでいる。はっきり言って、これを全部解決するのは無理です。 だからさ、ここはシンプルに、自分が今できることを考えてみよう」 |
花田 |
「今、私ができること?」 |
本間 |
「何か毎日必ずやっている習慣とかある?」 |
花田 |
「それがないんですよ。今、編集部でアルバイトをしているので、急に徹夜になったりヒマになったり。 食事の時間も睡眠時間もバラバラです」 |
本間 |
お! これは言いことを聞いたぞ。そこですよ。 おそらくね、仕事のリズムをコントロールするのは無理だから。何か一個、花田さんができる習慣を決めようよ。
例えば日記をつけるのもいいし、誰かに毎日メールを送ってもいいし」 |
花田 |
「日記? ああ、文章を書くのは好きなんで、いいですね」 |
本間 |
「1日1回、日記やメールを書くことで自分と向き合う時間が持てると思うんだ。 今まで話を聞いてて思ったのは、『○○からこう言われた』とか、『こういう扱いを受けた』とか、花田さん自身を外側から見ていることが多いような気がして…」 |
花田 |
「そうなんですよ! 母や友人からもよく言われます。『外から自分を見すぎだ』って」 |
本間 |
「花田さんは外側から見た自分に流されているのかもね。だから、内側から自分を見てあげる習慣をつけると、結構いいと思う」 |
花田 |
「自分に自信がないんですよ。編集のアルバイトの時も、これでいいのかなーって自分にOKを出せないままやっている。 だから、人の言葉に敏感で、いつもビクビクしている」 |
本間 |
「そう、内側から見た時に自信がないってよく言っているから。 だから日記とか手紙で内側から自分を見つける習慣をつけていこうよ。日記と手紙、どっちがいい?」 |
花田 |
「うーん。相手がいた方がいいから手紙かな。でも相手がいないんですよ」 |
本間 |
「でもさ、日記もまったく読み手がいないわけじゃないんだよ。 日記文学っていうのもあるし。もしかしたら、何世紀か後にあなたにそっくりな人が読んで共感するかもしれない。」 |
花田 |
「私の日記をですか? 私みたいな人間に共感する人なんているのかな…」 |
本間 |
「そんな! いますよ。だって、この日本に就職が決まらないで、しかも彼氏にふられた23歳の女性って、 何人いると思います。軽く1000人はいるんじゃないかな?」 |
花田 |
「えっ。そうなんですか。ちょっと嬉しい。そうか、私みたいな情けない状態の大学生って他にもいるんだ」 |
本間 |
それに、日記は相手がいないって言うけど、自分自身だって立派な読者なわけ。 今の花田さんは人生ボコボコの時期だと思うんだよ。でも、人間の運には波があって、何十年後かには幸せな時期が来るかもしれない。
そういう時に日記を読み返すんだよ。いわばタイムカプセルだね」 |
花田 |
「なるほど。未来の私を読者だと思ってか…」 |