シネマの達人 ―最新映画星取表― バックナンバー一覧
【バックナンバー vol.9】

シカゴ
WATARIDORI
ぼくんち

「愛してる、愛してない」

『アメリ』のオドレイ・トトゥが演じるのは、心臓外科医のステキな彼と熱愛中の画学生。でも彼には奥さんアリ。 彼との恋のために頑張る彼女はキュートで『アメリ』のときみたいに応援したくなる! ところが、中盤から『シックス・センス』的な仕掛けがスイッチオン。ポップな映像の中に隠されたメタフォリックなキーワードは見事です。 原題“A la Folie… pas du tout”は「好き、嫌い…」と花びらをちぎりつつ言う花占いの決まり言葉らしい。 これって占いじゃなくて「“好き”っていう結果が出ればなぁ…いや私が出す!」という恋する人の決意表明?ラストは背筋がゾゾゾ。
(波多野えり子)


星の点数 :  = 1 = 0.5
シカゴ

監督:ロブ・マーシャル
出演:レニー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、リチャード・ギア
過去のない男

山本聡子    
★★★☆
  細かいことは抜きにして、とてもパワフルな娯楽映画。刑務所の中だって、処刑台の上だって、人生はショータイム。 囚人だろうが、死刑囚だろうが、だれもが舞台の主人公なのだ。ショーと現実の錯綜する場面の変化もテンポ良く、歌も踊りもとても痛快。 1920年代のシカゴの危険な雰囲気も魅力的。これは女性による、女性のための映画ですね。一番光っていたのはキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。 リチャード・ギアはちょっと弱かった。やっぱりミュージカルは楽しい。うじうじ考えても仕方ない。自分も舞台の主役を演じる気分で、人生を楽しまなきゃ損。 そんな気持ちにしてくれた。
中沢志乃   ★★★☆
ご存知アカデミー賞12部門に輝いたハリウッド大作。第一次大戦が終わり、好景気に沸いて社会が急激に変化した1920年代のシカゴ。 人々が都市へ都市へと出てきたRoaring20s(狂騒の20年代)と呼ばれた時代に有名になることだけが生きがいだった2人の女性がいた。 そのためには手段を選ばない2人の栄枯盛衰を描いた作品だが、なんといってもパワフルなダンスが素晴らしい! たくましく生きる力がズンと伝わり、実生活でも元ダンサーのキャサリン・ゼタ=ジョーンズが理想の美しさで圧倒する。 ストーリーは思ったより単純だが、編集もスピーディで飽きさせず、是非また、舞台でも見てみたい作品。
増田統    ★★★☆
素人のスター志願は、禁酒法時代よりも現代にこそ身につまされる。開巻早々、舞台上でスポットライトを浴びるヴェルマの雄姿に、 自らの憧れを重ねたロキシーの妄想を目の当たりにした瞬間、監督ロブ・マーシャルの作劇は成功した。ミュージカルは肉体の躍動こそがモノをいう。 ロキシー役にレニー・ゼルヴィガーが起用されたのもそれゆえだろう。『ブリジット・ジョーンズの日記』では消防署で大胆な尻もちをついたレニーの、 そんな共感を誘わずにはおかない身体性は、平凡な主婦のつかの間のシンデレラ・ストーリーを説得力あるものにする。それに加えてあの声だ。 こうして、夢物語の中で活きたレニーの親近感に裏打ちされた普遍性は、誰もがスターになりえる今、現代のリアリティを生み出した。
にしかわたく  
なんだぁーこの退屈さ。2時間が長いこと長いこと。(オスカー作品なのであえて辛口で行きます)まずお話が陳腐。 ホンチャンの舞台ならこのシンプルさが生きるのかもしらんが、映画としてみるとひたすら嘘くさいだけ。もとがいくら良くても、 舞台をフィルムに置き換えただけじゃあ面白い映画にはなりまっせん!そして主役のレニー・ゼルヴェガーが悲しいかな完全に役不足。 ライバル役のゼタ=ジョーンズがかなり強烈なので、完全に喰われてました。「ミュージカル映画ってもっと楽しいはずだ!」と思い、 口直しにビデオで『オールザットジャズ』を見直してしまいました・・・。

WATARIDORI

総監督:ジャック・ペラン
ドキュメンタリー

中沢志乃   
★★☆
「シカゴ」に引き続き今月は“生きる”2作になったと思った。わくわく動物ランドを映画化した…とも言えるが、生きるために飛び、 時には傷付き息絶える鳥たちを撮り、うまく1つの人生のごとく編集をしたのは監督の腕だろう。一生懸命に飛ぶ鳥の、上から下から斜めから、 おまけに横からドアップの映像は、どうやって撮ったのか、他ではなかなか見られない極上もの。 ただ飛び続けすぎて、少々間延びの感もあったのが残念。
増田統    ★★☆
鳥の飛翔は美しい。まさに全身運動そのものだ。雛の頃から懸命に羽をはばたかせて筋肉を鍛え、来るべき長旅の準備に備える。 さすが手羽肉は美味いはず、と不謹慎な感慨はともかくとして、弱肉強食、生存競争の残酷ささえもありのままに見つめることで浮かびあがる命の輝きは今、 日本で公開された偶然とはいえ、渡り鳥が在りし日のNYツインタワーの前を翔るとき、皮肉な感慨となる。人間の叡智を賭けた高層タワーがあっけなく塵芥と化し、 一方ではささやかながらも綿々と受け継がれる生存本能の行為。その儚げに見えて強靭な生。ロマンティストたるジャック・ペランは、 恐らく唯一の脚色であろう罠の残骸を足に絡めつつ空を舞う雁の崇高な美しさに、その実感をエモーショナルにあふれさせる。
古東久人   ★★
ドキュメンタリーだからあまり演出しちゃいけないんだろうけど、もっと面白い鳥の動きとかあっと驚くような生態を映像で見せてほしかった。 例えばNHKの『生き物地球紀行』など、生き物のドキュメンタリーは好きでTVでよく観るのだが、うーん、TVをややスケールアップした程度の印象。 長く感じました。もう終わりかと思ったら、まだペンギンがあった。リュック・ベッソンの『アトランティス』ほどの技巧があればよかったとのになあ。
山本聡子   ★★
まさか鳥が飛んでるだけの映画じゃないだろうと期待して行ったのだが、本当に鳥が飛んでるだけだった。 NHK『生き物地球紀行』の柳生博のナレーションを無くした感じ。とはいえ、映像は素晴らしく、よく追ったなと思う。 あれだけの映像を撮るには、並大抵でない技術と時間とお金、そして何よりも根気がなければできないだろう。でも2時間(近く)は長すぎる。 余計な説明を一切入れず、映像だけで勝負するのもひとつの方法ではあるけれど、もう少し編集の段階で、飽きさせない工夫をしてほしかった。 せっかくの素晴らしい映像があるのに、もったいないです。

ぼくんち

監督:阪本順治
出演:観月ありさ、鳳蘭、矢本悠馬、田中優貴

古東久人   
★★★★
阪本順治の映画では「トカレフ」がいちばん好きというと、変わっていると言われるが、「ぼくんち」はその次くらい。 少年も、女性たちもたくましくていい。阪本の映画の主人公は「どついたるねん」から一環していつも何かと闘っている。 それが突き詰めていくと、生きることだったり、自分だったりする。生きていくことを極端に言えば常闘いであり、試練の連続だ。 だから阪本映画を観ると力が湧いてくる。観月ありさも、めいっぱい頑張った。きっと主演女優賞候補に名乗りをあげてくるだろう。
増田統    ★★★
「泣いて腹がふくれるか」と言うかの子に、一太は「泣きたいときは泣いたらええ」と反発する。大人の世界って、何て複雑なんだろう。 少年は生まれながらに現実的な少女とは違う。けれど母胎からこの世に産み落とされた時のように、いつしか社会に押し出される日はやって来る。 ここでも阪本順司監督は、少年の崇高な凛々しさに共感の眼差しを注ぐ。オンボロ自転車にまたがり、ひとり島を旅立つ一太は、 やがて世の中の厳しさを噛み締めるだろう。でも、“ビンボー”が言い訳の生活に疑問を抱くことで新世界のありかに目覚めた彼は、決して後戻りしないはずだ。 一太が噛み締めるに違いない将来の絶望や挫折は、今は希望の名に隠しておこう。それがぶっきらぼうなこの映画の不器用な優しさだからだ。
にしかわたく   ★★★
元祖自虐系・西原理恵子の漫画を、『顔』『KT』の阪本順治監督が映画化。原作と監督、ともにファンである私としてはかなり期待して映画館へ行ったが、 出来はまずまず。ここ数年意欲作が続いた阪本監督、今回は箸休めといった感じか。少し演出が散漫な印象だが、それをおぎなって余りあるのが主演の観月ありさ。 ピンサロ嬢という初の汚れ役を見事に演じきった彼女に拍手を送りたい。弟をかばって「そんなもんうちのま○こでいくらでも弁償したるわー!」 とタンカを切る彼女に胸を熱くしたのは私だけではあるまい。ちなみに原作のサイバラも同僚のピンサロ嬢役でちょこっとだけ出演してます。
波多野えり子  ★★
ストーリー・ロケーションなど題材はいい感じ。子役たちは学芸会っぽい味を出しつつも、素朴な漁村という背景にはまあ合っているし、 個性的な脇役たちの存在も作品を助けているとは思う。でも何か物足りない!!そして印象的なのは、 鳳蘭と観月ありさがおいしくない中華料理屋のおいしくないラーメンを食べて「まずい!」と叫びながら、各々の想いを噛みしめるクライマックス。 ふたりがスラリと立つ姿を観て、あまり苦労が似合ってないなとついつい感じてしまった。


編集雑記

漫画家の蛭子能収が30年来の夢を実現して初監督した「諫山節考」を観た。短編ながら、彼の漫画のタッチを彷彿とさせるシュールな映像が楽しめる。本編以上に笑えるのが、メイキング。蛭子さんの人柄がそのまま出ている現場で、恥ずかしそうに「スタート!」や「カット!」と声をかけるところが微笑ましい。
 出演はベンガル、伊佐山ひろ子、神戸浩、根本敬、杉作J太郎など。次回は長編劇映画にも挑戦してほしい。
(古東久人)

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