古東久人 ★★★★★
美男美女とはお世辞にも言えない、おっちゃんとおばはんのラブストーリー。このおっちゃんはおやじ狩りに遭い、頭を殴られ、瀕死の重傷。 というか死んだかと思ったら、そのミイラのように包帯を巻かれた男は実は生きていて、妙に笑いを誘う。
結局、男の失った過去とは、忘れたかった過去だとわかって、この映画の奥の深さを思い知った。暴漢に襲われても、幸せになれるんですね。 クレイジーケンバンドの「ハワイの夜」が、まだ耳に残っている。
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にしかわたく ★★★★
「昔の映画ってシンプルでいいよなぁー」ってよく思います。だけどビデオ屋で借りるのは大抵が新作。 なんでかっていうと、ズバリ「楽だから」。今の映画ってやたらと情報量と刺激が多くて、自分の想像力使わなくていいから楽なんです。
世の中みんなその楽ちんさに慣れちゃってるので、今の時代に昔みたいなシンプルな映画作るのって、かなり冒険。 だけどこのカウリスマキって監督、いつもその危ない綱渡りを平気な顔してやってのけちゃいます。
今回の映画もとっても愛らしくて、おかしくて、この上なくシンプルでした。恥ずかしながら、元気もらっちゃいました・・・・。
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山本聡子 ★★★☆
噛めば噛むほど味の出る、スルメのような映画。なんといっても“間”がすごくいい。小津映画に漂うようなおかしさがある。 最小限のセリフとスローな世界に引き込まれ、ずっと浸かっていたいような気分。やたらと姿勢がよい過去をなくした男。
彼を取り囲む素朴な人々との生活の中では、ひとりの善良な(?)銀行強盗や強欲な家主などに投影された資本主義社会はとても住みにくいものに見える。 本当の幸せとは?金を持つことが果たしてどれだけの意味を持つのか、嫌でも考えてしまう。ただひとつ言えるのは、人間、体ひとつで生きていけるのです。
もちろん、生きる意欲さえあればね!
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増田統 ★★★
北欧、とりわけアキ・カウリスマキの映画にはどこか東洋的な感性がある。言葉にも、なぜか耳馴染みのある響きを感じるせいか、 小津へのオマージュを捧げた『浮き雲』しかり、この映画にも日本的な美学が息づいているように思える。記憶喪失の男が捜し求めるのは過去ではなく、
日常生活のささやかな喜びが連なる未来だ。その男と彼を愛するイルマの面差しは、ともに能面のような無表情でありながら、 それゆえ視線のさりげない交歓やほのかな色合いの変化が、豊穣な感情を伝える。
そしてクレイジー・ケンバンド!かつて「雪の降る町を」を新鮮な解釈で聞かせたカウリスマキが、列車の中で寿司をつまむこの男の姿から醸し出すのは、 過去の惜別ではなく、日々の淡々とした決意だ。人生はどこまでも続くのである。
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