秋晴れの9月の朝、それは突然やって来た。その日、早晩勤務だったワタシは、オフィスの掃除を終え、さあコーヒーでも飲んで仕事にとりかかるか〜と、 コーヒーを飲もうとしたまさにその瞬間、「ごめんくださーい」と、渋く存在感のあるバリトンの声をドア越しに聞いたのだ。 また何かのセールスかしらん?と思いながらドアを開けたとたん、ワタシはフリーズ状態に。 「こちらYEさんだよネ」とワタシに会社名を確認させながら、その「バリトン」がワタシに見せた物は、 以前よりひと回り小さくなって薄くなったといわれる警察手帳。ワタシは、テンになった眼をバリトンの後方に向けると、 何とそこには、あと5人の警察官がいるではないか。 ナ、ナンナノヨ〜的眼差しでバリトンたちを見回していたら「社長の○○タケオはいる?」と、私服警官(通称デカ)がたずねるので、 「いますよ〜」とフレンドリーかつ平静を装った声で答えたそのとたん、合計6人のオトコ達が土足のまま上がりこんでくるではないか! こーゆー緊迫した状況の時、ワタシは変テコなことを考えてしまう癖がある。「さっき、たった今さっき、掃除機でキレイにした床を 、よくも汚してくれちゃって!!」と怒りをこらえながら、奥を見ると、6人のオトコ達が社長を取り囲んで何やらドスの効いた声で社長を脅しているではないか! あとでわかったことだが、彼らは脅していたのではない。 社長が犯した罪状を読み上げていたのである。 でもって社長は、あっという間に彼らにしょっ引かれて行ってしまったのである。 目テン・頭まっしろの社員たちを残して。 そしてワタシは、私服にスカウトされた! ドアのピンポ〜ンから社長のタイホまで、この間わずかたったの5分。何がナンだかわからない非日常的出来事が起きると、 何故かワタシは逆に冷静になってしまうのだ。冷静になんかなりたくもないゾ!という時に限ってである。 私服は言う。「今、この瞬間から、この会社は営業停止です。私物以外は持ち出さないように。 あと一人ずつ話を聞かせてもらいたいので、他の2人は会社の外で待っててください」と。 妙に慌てず騒がず淡々と対応していたワタシは、その私服に眼をつけられ「アナタ落ち着いてるネ〜。こーゆーことがあっても、あまり驚いてないようだし、 こんなこと言っちゃ失礼かもしれないけれど(失礼だっちゅうの!!)、慣れてる?こーゆー出来事にさ」だと!! “慣れるワケないだろ、バ〜カ”(心の声)と思いつつ、過去にワタシが巻き込まれた数々のドラマティックな事件を、その私服にポツリポツリと話していたら、 今度はその私服の眼がテンになっているではないの! マジマジとワタシの顔を穴の開くほど見つめながら「アナタ、すっごい体験しているんだネ〜。度胸がすわってるのはそーゆー経験があるからなんだ。 しっかしすごいね〜」と、感心しているのか呆れているのか「シロウト」のワタシには理解できない表情を浮かべながら、私服は何やら考え込んでしまった。 と、「ところでサ、今、警察では“身近にいる犯罪被害者”というテーマで、話をしてくれる人を探していたんだけど、アナタ、引き受けてくれないかな〜。 ぴったりなんだよネ、アナタがこのテーマに。 ネ、どうかなあ、考えてくれないかなあ」と、媚びるような眼つきでワタシを見つめるではないか。プロのデカが、である。 可愛くもない顔とイイ年齢した大のオトコがである。 そうなのだ。彼はワタシをスカウトしたのである。“身近にいる犯罪被害者”ということで。タレントのスカウトならまだしもである。 ま、警察官がシロウトをタレントとしてスカウトしたら、それこそ犯罪ではあるけれど……。 (つづく)
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