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猪瀬直樹氏(東京都副知事・作家)


●文章を書くには「訓練」が必要

私はいま東京の副知事として、「言葉の力」再生プロジェクトというのをやっています。
最近、自分の手の届く範囲のことにしか関心を持てない若者が増えていることに危機感を感じたからです。日本の国力というのは人的資源です。日本人は誰でも字を読み、書くことができます。明治以降、日本人は先進国の情報を貪欲に吸収し、近代化を成功させてきました。

しかし、いま都庁職員を調べても、1カ月に1冊も本を読んでいない人が12%もいます。その中の47%が20代。彼らは政治や経済、国際問題といった社会全体の動きに関心が薄く、本や新聞を通じて世界の動きを知ろうとしません。気の合う仲間と限られた世界に閉じこもり、心理的な鎖国状態になりつつあります。この若者たちの状況をなんとか改善したかったのです。

その意味で、みなさんが感想文コンクールに応募しようとされたのは、とてもいいことだと思います。

さて、今回の作品ですが、残念ながら飛びぬけたものはなく、レベルとしては満足のできる結果ではありませんでした。その分、選考は難航しました。 感想文を書くにあたっては、そもそも著者は何を言いたいのか、という命題をきちんと立てることが必要です。それから、それについてのエピソードなり、現代との関わりなどを述べる。最後に結論をきちんと書く。そういう訓練が必要です。また、文章のなかにもっと面白味も欲しいですね。

最優秀賞の青木さんは、「国家」というものを正面にすえて書いた点を評価しました。
いま「国家」を語ることは非常に難しいと思います。青木さん自身もまだちゃんとわかっていないんじゃないかと思いますが、そのチャレンジ精神を買いました。

猪瀬賞の今村君は、インターネットの問題点など、現在の状況を諭吉の時代と重ねて考えて論評している点が評価できました。

私は若い人に「古典を読みなさい」と薦めています。古典というと、紫式部の「源氏物語」などを思い浮かべるかもしれませんが、自分が生まれる前にできた作品は古典と考えてよいと思います。

書籍を読むことは他者との対話です。最近出版された本や、インターネットのブログ、友達が書いたものなどは、読解しなくても雰囲気でわかりますが、過ぎ去った時代の作品は同じ空気を共有していないので、想像力で補うしかありません。

源氏物語も読むべきですが、まずは近い時代のものから読んでみたらどうでしょう。
生まれる前、記憶のない場所、それが歴史への入口となります。(談話)






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