シネマの達人 ―古東久人の最新映画星取表― バックナンバー一覧
【バックナンバー vol.1】

ハッシュ!
少林サッカー
メン・イン・ブラック2
模倣犯
パニック・ルーム
ワンス&フォーエバー
新・仁義の墓場
スパイダーマン
モンスターズ・インク
マルホランド・ドライブ
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ
カタクリ家の幸福
スパイダー
ソウル
バニラ・スカイ
オテサーネク
アメリ
仄暗い水の底から
光の雨
GO
リリイ・シュシュのすべて
オー・ブラザー!
ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃
ピストルオペラ


日本映画 外国映画
風花 オー・ブラザー!
EUREKA ショコラ
GO アメリ
ウォーターボーイズ  
ココニイルコト  
2001年 マイ・ベスト・シネマ
僕の唯一の編著書が相米監督の本だったので、相米さんの死は本当に残念です。青山・行定・矢口といった新しい才能が成長していることがせめてもの救い。「ココニイルコト」の真中瞳には惚れました。ヨコハマ映画祭での挨拶も立派でした。女優と しての今後の活躍も期待しています。 外国映画のほうはあまり観られなかったけれど、公開本数が多すぎて、一般的に評価 が分散しているのではないでしょうか。映画雑誌での「オー・ブラザー」「ショコラ」 といった作品の評価が低いように思います。


  ハッシュ! おすすめ度
監督:橋口亮輔 出演:田辺誠一、高橋和也、片岡礼子

今年の邦画では今のところいちばんの収穫。高橋のすねるところは実にカマっぽく、本物ぽかった。田辺のようなおかまに見えないタイプも現実にはいそうである。
それにしても劇場は女性ばかりで、誰か女の友人を誘えばよかったと後悔。男ひとりで観に行くには勇気のいる映画だ。
作品としてはやはり秋野暢子の「身勝手すぎる」という一言があって、モラルが保たれたというかストーリーが締まった。 片岡は憎めないけど、ただ「子供が欲しい」というのは明らかに身勝手だから。
(6月16日、シネ・クイント)



 少林サッカー おすすめ度
監督:チャウ・シンチー 出演:チャウ・シンチー、ン・マンタ

日韓ワールドカップ開催中の公開とは、実にタイムリー。とにかくずっと笑いっぱなし。 ミラクル・シュートは敵のゴールキーパーを裸にし、ゴールもはじき飛ばす。これじゃ、ドイツのカーンも止められないぜ。予想を超えた面白さだった。 (6月8日、渋谷東急)



 メン・イン・ブラック2 おすすめ度
監督:バリー・ソネンフェルド 出演:トミー・リー・ジョーンズ、ウィル・スミス

前作を観ている人には不要だけど、MIBはトラブルを起こすエイリアンを監視・退治する秘密機関のこと。 シリーズ物って尻すぼみになりがちたけど、ストーリーを練って面白さをキープ。 今回はJとKの立場が逆転、そのギャップが楽しめるってことは前作を観逃している人はビデオでおさらいする必要あり。
(6月20日、渋谷パンテオン)



 模倣犯 おすすめ度
監督:森田芳光 出演:中居正広、木村佳乃、山崎努

森田芳光は好きな監督だけど、今回はまったく乗り切れないままに終わってしまった。 中居正広が演じる<ピース>という役に魅力がなさ過ぎ。ピカレスク・ロマンを期待したのが間違いだった。 山崎努の存在感と、津田寛治の好演が救い。伊東美咲の映画デビューも楽しみだったが、あっけなく殺されてしまったのが残念。もっと見たかった。
(6月9日、渋東シネタワー)



 パニック・ルーム おすすめ度
監督:デビッド・フィンチャー 出演:ジョディ・フォスター

ジョディ・フォスターといえば「羊たちの沈黙」が有名だが、14歳でデビューした「タクシードライバー」が忘れられない。 そう、数少ないずっと成長を見守ってきた女優なのである。その間に監督もしたし、母親にもなった。知性派でマルチな人だが、 彼女も中年に近づき顔が柔和になり、さらに美しさは増したような気がする。
パニックルームとは大富豪の家に作られた緊急避難用の密室である。離婚した母娘が引っ越して間もなく暴漢の侵入に遭い、この部屋に逃げ込む。 そしてその侵入者たちと実にスリリングなバトルを繰り広げる。妊娠中にこれだけアクションできるのも凄い!  興奮した! ジョディには戦う姿がよく似合う。
(3月28日、渋谷パンテオン)



 ワンス&フォーエバー おすすめ度
監督:ランダル・ウォレス 出演:メル・ギブソン、バリー・ペッパー

アメリカ映画のテーマとしては過去に何度も取り上げられているベトナム戦争。今回はハル・ムーア中佐と特派員ジョー・ギャロウェイの実体験が元になっている。 戦闘シーンもさることながら、特に印象深かったのは兵士たちを待つ夫人や家族に訃報を届けなければならない中佐夫人の苦悩を描いたところだった。 「戦争を憎め、だが兵士たちは愛してくれ」このハル・ムーアの言葉には、さすがに戦争を体験しているだけの重みがある。
(4月2日、日劇2)



 新・仁義の墓場 おすすめ度
監督:三池崇史 出演:岸谷五朗、有森也実、美木良介

とにかく映画を撮りまくっている三池監督。ここ数年は年3〜4本ペースで、今年も「DEAD OR ALIVE FINAL」「カタクリ家の幸福」「荒ぶる魂たち」がある。 この映画は一応、深作欣二&渡哲也の「仁義の墓場」のリメイクだが、岸谷五朗の頑張りもあって別物といってもいい仕上がり。 久しぶりに破滅に向かって突っ走る野獣のような男の生き様を見た。モデルは実在したやくざで、 ヘロインに溺れて恩人まで殺そうとする救いようのない人間なのだけれど、命がけで生きている姿には圧倒された。
(4月15日、東映試写室)



 スパイダーマン おすすめ度
監督:サム・ライミ 出演:トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト

楽しい映画だけど、ちょっと切ない話。結局、主人公のピーターは好きな女の子に正体を明かすことができないまま、 正義の味方、スパイダーマンというもう一つの人生を生きなくてはならないからだ。 娯楽大作とは言え、「ダークマン」の監督らしく大味の作品にならず、いい味を出している。 ピーターは遺伝子操作の蜘蛛に刺されたことで特殊な能力を身につけるが、 もとの人間に戻ることはないのだろうか?大いなる力には大いなる責任が伴うことを自覚しながら、 宿命を背負って生きることになる。続編もあるようなので、さらなる展開が楽しみ。
(4月18日、日劇1)



 モンスターズ・インク おすすめ度
監督:ピート・ドクター 出演:ジョン・グッドマン、ビリー・クリスタル

「トイ・ストーリー」や「バグズ・ライフ」を生み出したディズニー&ピクサーの 最新作。子供の映画かと思いきや、さにあらず。出会いと友情、そして別れが丁寧に 描かれており、大人も楽しめる作りになっている。「千と千尋」は少女が妖怪たちの 住む不思議の町に迷い込む話だったが、本作も設定はほぼ同じ。妖怪がモンスターに なっただけ。ただ、少女の年令がまだ2歳で自力で脱出することができないので、心 優しきモンスターが手助けしてあげるというもの。コンピュータ・アニメーションの 技術はさらに進化しており、とにかく映像の美しさには目を見張るが、それはサリー のふさふさとした毛を見れば一目瞭然である。(3月23日、渋谷東急)



 マルホランド・ドライブ  おすすめ度
監督:デイヴィッド・リンチ 出演:ジャスティン・セロウ、ナオミ・ワッツ

TVシリーズ「ツイン・ピークス」の日本でのブームから早いもので、もう10年。 今回は久しぶりに妖しいリンチが帰ってきたのが、まず嬉しい。この映画もそもそも はTVシリーズとして企画されたものらしい。そのためかどうか謎めいたストーリー は複雑で、一回観ただけでは理解しにくい部分も多い。それでも楽しめてしまうとこ ろが、リンチ映画の魅力でもある。まるで誰かの夢をのぞき見しているような不思議 な感覚の映画。記憶喪失の主人公に付き合っているうちに、観客も迷宮を彷徨うこと になる。(3月9日、渋谷東急3)



 ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ おすすめ度
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル 出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル

一見、キワモノ映画のように受け取られてしまうかもしれないが、かなりストレー トな自分探しのドラマだ。ヘドウィグは性転換手術に失敗したロック歌手。本当は6 インチ切るはずが、不幸にも股間に1インチ残ってしまい、それがアングリーインチ (怒りの1インチ)というわけである。ヘドウィグはそれら人生の怒りをロックに託 し、歌い続ける。面白くて、切ない映画。オフ・ブロードウェイで人気のロックミュー ジカルの映画化であるが、もし日本で舞台をやるならザ・イエロー・モンキーの吉井 和哉にヘドウィグを演じて欲しい。特にグラムロックが好きな方には、5ッ星でおす すめ。それからヘドヘッドが非売品らしいので、誰か輸入して!



 カタクリ家の幸福 おすすめ度
監督:三池崇史 出演:沢田研二、松坂慶子、忌野清志郎

傑作になり損ねた怪作。実写で描かれていた人間がいきなりシュワンクマイエル風 のクレイアニメに変化したり、映画評論家・塩田時敏が最初のペンションの客として 怪演を見せたり、怪しげな雰囲気はよかったのだけれど、結局、肝心なミュージカル の部分が肩すかしで終わってしまった。だって歌謡界のスーパースター、ジュリーと ロック界のスーパースター、清志郎が共演のミュージカルなんて聞かされたら、もの 凄いものを期待してしまうではないか。二人の歌でのバトルが観られると思ったのに 絡みは殆どなかったし。勝手にしやがれ!(3月2日、シネリーブル池袋)



 スパイダー おすすめ度
監督:リー・タマホリ 出演:モーガン・フリーマン、モニカ・ポッター

「羊たちの沈黙」系の、犯罪心理捜査官とサイコ犯の戦いを描くサスペンス。ワシントンにある私立学校から上院議員の娘が誘拐され、捜査官アレックスが駆り出される。捜査が進むにつれて犯人は追いつめられるものの、話は意外な展開に。その意外性にハラハラ、ドキドキさせられたので、星3つ。欲を言えば、捜査官の活躍よりも、頭の良さそうな議員の娘・ミーガンの奮闘ぶりをもっと観たかった。
(2月6日、ヤクルトホール)



 ソウル おすすめ度
監督:長澤雅彦 出演:長瀬智也、チェ・ミンス

今年は日韓ワールドカップが開催されることもあって、そうしたブームに乗ろうというのか映画やTVドラマなどでも日韓合作が数多く観られそう。これもそんな1本であるが、監督は「ココニイルコト」の長澤雅彦。前作は癒し系の、こぢんまりとし た作品だったが、今回はバリバリのアクション大作で、意外に器用なところを見せている。話はアメリカ映画によくありそうな刑事アクションという感じで新味はないが、 二人の刑事の通訳を兼ねた女性警官のボケっぷりが面白く、配役のコンビネーション はいい。
(12月20日、東宝試写室)



 バニラ・スカイ おすすめ度
監督:キャメロン・クロウ 出演:トム・クルーズ、ペネロペ・クルス

スペイン映画「オープン・ユア・アイズ」(1997)のリメイクである。リメイクと いうとある程度年数が経った作品を現代的な視点から描き直すのが、企画意図としてあるのが普通だと思うが、 この映画は明らかにトムの個人的な趣味じゃないか。 ペネロペは確かに魅力的な女優だけど、新しい恋人を共演に使いたかっただけではないかと、下種の勘繰りもしたくなる。それに主人公・トムの顔の崩し方も足りない。もっ と醜く崩さないと、この物語は生きてこない。この「バニラ・スカイ」だけ観た人は、 面白いと感じるかもしれないが、その面白さは「オープン・ユア・アイズ」があってこそのものだ。
(1月20日、渋東シネタワー)



 オテサーネク おすすめ度
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル 出演:V・ジルコヴァー

シュヴァンクマイエルというと初期の短編アニメが印象的だが、最近は「アリス」 「悦楽共犯者」「ファウスト」といった実写の中に人形アニメも取り込んだシュール な長編も撮り続けている。カタカナのタイトルからは内容を判断するのは難しいが、 人食い木の切り株という、まさに人を食ったストーリー。子供ができないホラーク夫 妻。日に日にノイローゼ気味になる妻を見かねて、夫が偶然に見つけた切り株を赤ん 坊の形にして家に持ち帰る。妻が妄想的にそれを本物の子供のように育て始めると、なんと旺盛な食欲をもつようになり、巨大化(形は切り株のまま)。やがて人間まで襲うようになってしまう。といってもホラーやスプラッタのような趣ではなく、ブラック・ユーモアの効いた仕上がり。赤ん坊のように泣き、手足(枝)をバタバタさせる 仕草は滑稽。ただし、観客に想像しろということなのか、結末は尻切れトンボ。
(1月14日、ユーロスペース)



 アメリ おすすめ度
監督:ジャン=ピエール・ジュネ 出演:オドレイ・トトゥ

「デリカテッセン」「ロスト・チルドレン」などのジュネ監督の新作は、意外にも これまでのグロテスクなイメージからは一皮むけた小粋なコメディだった。昨年、フ ランスで大ヒット。現在、日本でもミニシアター公開ながら客入りはいいらしい。何 が受けたのか。主人公アメリのマイペースで、自由気ままな生き方というか生活ぶり に共感した人が女性を中心に多かったということだろう。アメリの周りの人を幸せに する小さな親切は、本人にとってはほんの退屈しのぎの悪戯にすぎないのかもしれな い。どちらかというと愉快犯に近い感覚だろうし、そういうアメリ自身も幸せな人だ。 風変わりな人は出てくるが、悪人はひとりもおらず、癒し系の映画といえる。
(12月、シネマライズ渋谷)



 仄暗い水の底から おすすめ度
監督:中田秀夫 出演:黒木瞳、菅野莉央、水川あさみ

久しぶりに完成披露試写会へ。舞台挨拶には原作者の鈴木光司、監督の中田秀夫に、 黒木瞳と水川あさみが立ったが、黒木の華やかさが際立つ。中田監督はホラー映画に ついてはかなり研究したようである。内容は中古マンションを舞台にした〈祟り〉も ので、母娘の愛情が軸になっている。さすがに作り手が「リング」のコンビだけあっ て背筋がゾクッとする怖さはあるし、水がテーマなので当然、水のシーンが多い。凍 りつく怖さ、という言い方があるが、印象としてはかなり寒々しい。どちらかという と夏に見たい映画ではあるが、真冬の肝試しはいかがだろうか?
(1月15日、日劇東宝)



 光の雨 おすすめ度
監督:高橋伴明 出演:萩原聖人、裕木奈江、山本太郎

連合赤軍による「あさま山荘事件」が起こった1972年2月、僕は13才だった。当時、犯人たちがどういう思想でそういう行動に移ったのかというところまでは理解できな かったが、機動隊が鉄球で山荘を破壊し突入するまでの攻防はテレビ中継されたので 今でも生々しく覚えている。この凄惨なリンチ殺人事件をストレートなリアリズムで 撮ったら重すぎて、敬遠されたかもしれないが、事件そのものを劇中劇として描くと いう秀逸なアイデアで乗り切っている。つまり事件を扱った小説を映画化するという のがストーリーなのだ。映画で描かれているのはあさま山荘に至るまでの、彼らの 「自己批判」と「総括」という大義名分もとに繰り返されるリンチ殺人。あまりにリ アルで劇中劇ということを忘れて見入ってしまうと、監督から「カット!」の声がか かり、ホッとするというユニークな構成の映画である。
しかし、彼らが犯した罪は決して肯定できるものではないとしても、この描き方で は「革命」まで否定してしまっていないだろうか。「総括」がただのイジメにしか見 えないのだ。僕より下の世代に見せることを考えるならば、彼らが革命運動に傾倒し ていくまでの過程も描くべきだった。俳優では永田洋子役の女優を演じた裕木奈江が いい味を出している。
(1月1日、新文芸座)



 GO おすすめ度
監督:行定勲 出演:窪塚洋介、柴咲コウ、山崎努

久々に明るく元気のいい青春映画の登場である。主人公の少年は「在日」という宿 命を背負ってはいるが、恋愛に関する物語にとりあえずそれは必要がないので、彼は 国境を乗り越えて、パーティーで知り合ったメチャクチャ可愛い女の子にGOする。 喧嘩が強く、一見粗暴に見えるが好きな女の子には誠実。ある日、在日であることを 告げるが、彼女はそれを聞いたことで引いてしまう。結果は見てのお楽しみ。
こう書くと甘いだけの映画と取られかねないが、東映作品らしく喧嘩のシーンも多 いし、在日の問題についても考えさせてくれる。ちなみに少年の喧嘩の戦績は24連勝 とめっぽう強いが、元ボクサーの父親にはコテンパンにやられてしまう。山崎努の親 父が渋く、存在感があっていい。息子が向かっていきたくなるような力強い父親であ る。窪塚洋介、柴咲コウも注目の若手俳優だが、きっと彼らの代表作になるだろう。
(1月2日、横浜西口名画座)



 リリイ・シュシュのすべて おすすめ度
監督:岩井俊二 出演:市原隼人、忍成修吾、伊藤歩

リリイ・シュシュとは、岩井俊二と小林武史によって創造された架空の歌姫であ る。
彼女はある種のトラウマを詩によって表現しているが、この映画の主人公たち、つま りティーンの間ではカリスマ的人気を持っている。リリイを好み、彼女のファンサイ トを主宰している少年は、万引、恋愛、イジメなど多くの問題を抱えている。
彼はある時期を境に友人だった同級生から支配されることになり、イジメを受ける のである。そしてどうしても逆らえない立場に追い込まれていく。イジメやレイプの シーンは見ていて辛いが、そうした感覚はおそらく観客の多くが示すであろう正常な 反応である。感情を抑えに抑え込んだ彼は、やがて叫び声をあげる。そして最期に自 分自身を解放するために彼がとった方法は、支配者の抹殺だった。
文学に拮抗するだけの深いテーマをもった映画ではあるが、登場人物の誰かに感情 移入できるような作りになっていないので、人によってかなり印象は違ってくるはず だ。観客もある種の痛みを伴うので、覚悟して見なくてはならない。
(1月3日、シネマライズ渋谷)



 オー・ブラザー! おすすめ度
監督:ジョエル・コーエン 出演:ジョージ・クルーニー、ジョン・タトゥーロ

オー、ブラボー! コーエン兄弟の新作は、彼らの最高傑作とも言える人間賛歌のドラマだった。 最近ではコーエン兄弟で通っているが、脚本は共同で書いているものの、監督をしているのは兄のジョエルのほうだ。
1930年代のアメリカ南部を舞台に描かれる、脱獄囚たちのロードムービー。 3人は仲間の一人が盗んで隠した金を求めて旅をするが、それがいつしか自分探しの旅へ変化していく。 彼らは珍道中を続け、たまたま吹き込んだレコードが本人たちの知らぬ間に大ヒットし、 それがラストで大きな意味をもってくる。
うまくいったかと思いきや、苦難もあり、旅そのものが人生を彷彿とさせる。 伝説の殺し屋ネルソンと遭遇したり、選挙運動に巻き込まれたり、KKKまで登場するなど内容は盛りだくさん。 人生いろいろあるけれど悪いことばかりじゃない、というメッセージが読みとれて元気が出た。



 ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃 おすすめ度
監督:金子修介 出演:新山千春、宇崎竜童、小林正寛

「ゴジラ」シリーズは1954年の第1作から数えてこれで25作目。これだけ続くと作品 の出来にも波はあるし、「またか」と思う人もいるかもしれないが、今回の「ゴジラ」は侮れない。 それは監督が平成「ガメラ」シリーズを成功させた金子修介だからだ。
特に2作目の「レギオン襲来」と3作目の「邪神〈イリス〉覚醒」は怪獣映画の歴史のなかでも 質的にトップレベルの作品だった。そして待望のゴジラ初監督。本作のバトルは悪役ゴジラ対人間とキングギドラ、 モスラ、バルゴンの連合軍の間で繰り広げられている。
緻密に練られた脚本からは?子監督らスタッフの怪獣映画に賭ける並々ならぬ情熱が伝わってきた。 戦いに傷つき、敗れた怪獣たちには悲哀すら感じられ、テレビレポーターの娘と 防衛軍の父の連帯という人間側のドラマもきっちり描かれている。
種明かしはしないが、ゴジラにトドメを刺すのは思わず笑ってしまうような意外なアイデア。 金子監督には「ゴジラ」ももう2.3作撮ってもらって、「ガメラ」のレベルに持っていって欲しい。



 ピストルオペラ おすすめ度
監督・鈴木清順 出演・江角マキコ、山口小夜子、韓英恵

初めて鈴木清順を観る人は「なんじゃこりゃ」と面食らい、清順を何度か観ている人は 「またやってるな」とほくそ笑むに違いない。考えるよりも感じる映画だ。筋を追えば 袋小路に入り込み、抜け出せなくなる。そもそも清順の自作「殺しの烙印」のリメイク として企画されたが、これこそかつて「わけがわからない」という理由で社長の逆鱗に触れ、 日活をクビになった因縁の作品である。
鮮やかな色づかいは80年代以降の清順の世界とつながっているし、「生活指導の先生」 など殺し屋の名前もユニーク。江角マキコの凛々しさもスクリーンに映える。映画の 面白さは個人の発見だから、さてどうみるか。わかりやすいから面白いとは限らないし、 わからないからつまらないとは言い切れない。
オムニバス『結婚』を除くと前作『夢二』から10年経っているが、日本を代表するシュールリアリストは 健在だった。 78歳にしてここまで過激になれる鈴木清順は凄いとしか言いようがない。 青汁を飲んだときのようにクセがあるが、もう一回観たくなるから不思議だ。


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