真夜中の虹

真夜中の虹(page 81/280)[真夜中の虹]

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81「いま、飲み屋で働いとるんだわ。一度、顔出してくれんか」久しぶりに聞くHの声は、まったく訛りが抜けていなかった。彼から聞いた道を繰り返し頭の中で思い出しながら、高円寺の駅近くにある商店街の脇道をグル....

81「いま、飲み屋で働いとるんだわ。一度、顔出してくれんか」久しぶりに聞くHの声は、まったく訛りが抜けていなかった。彼から聞いた道を繰り返し頭の中で思い出しながら、高円寺の駅近くにある商店街の脇道をグルグルと歩き回り、彼が働く店を探した。どこをどう歩いただろうか、気がつくと袋小路のドン詰まりにいた。目の前には、いかにもいかがわしい店。目を上方にやると、そこには「京子」と書かれた古びた小さな看板。間違いない、そこがHの働く店だった。中に入ると、車に撥はねられた殿様蛙のような顔をしたオバちゃんと、身も心も浮むく腫みきったHが、ふたり並んでカウンターの中にいた。給料日明けの土曜だというのに、他に客はいなかった。僕は頭をちょこんと下げた。久しぶりに会う彼に、妙な後ろめたさを感じ、挨拶が他人行儀になった。子供が生まれたばかりの幸せと、彼の荒んだ生活を比べている自分が少しだけ嫌になった。彼との「間」を埋める言葉がすぐに出てこない。昔は気にならなかった沈黙が、今日は妙に気になって仕方がない。あまり黙っているのもなんだかと思い、口を開いた。「お前、結婚したんだって?」「おお、籍はまだだけど、この人と」Hが隣の女性を顎で指した。