真夜中の虹

真夜中の虹(page 79/280)[真夜中の虹]

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概要:
79のだ。おまけに名古屋出身の役なので、どれだけ訛っても文句は言われない。僕も唖の役という、吃どもりようのない役をもらった。Hは頑張った。本番で笑いを取り、そして輝いた。それは彼の生涯の中で、「青春」と....

79のだ。おまけに名古屋出身の役なので、どれだけ訛っても文句は言われない。僕も唖の役という、吃どもりようのない役をもらった。Hは頑張った。本番で笑いを取り、そして輝いた。それは彼の生涯の中で、「青春」という名のいちばん生き生きとしたときだったに違いない。Hに先を越されたOは完全に落ち込み、円形脱毛症と痔を併発。Oはしばらくの間、田舎に帰って入院することになった。しかし出る杭は打たれる。公演が終わり、次の芝居の稽古に入ったとき、Hは再び訛りと格闘することを強いられた。訛りを喋っていれば面白いのだが、標準語になるととたんに味がなくなってしまう。そこにつけこんで、彼に対し先輩たちの苛いじめが入る。いまなら「どんな役が来ても、そのまま名古屋弁で通せばいいよ」と助言できるのだが、あの頃はまだそんなことを言えるほど経験がなかったし、先輩たちに刃向かう勇気もなかった。彼は苦しんだ。僕やOのように先輩たちに取り入ることがあまりうまくなかったHは、バイトをやめ、昼間からオナニーばかりするようになり、芝居の稽古にも出てこなくなった。そして、ある日、劇団をやめた。いまさら田舎には帰れない…。Hはそのまま都会の闇の中に身を沈めていった。