真夜中の虹(page 78/280)[真夜中の虹]
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概要:
78惑をかけた。そんなHだったが、劇団のオーディションにはかろうじて合格した。そんなとき、両親が死んだ。Hは、Oと一緒に慰めてくれた。特にHは、葬式のあと、親戚が集まって酒を飲んでいる場で、大きな声で春歌を....
78惑をかけた。そんなHだったが、劇団のオーディションにはかろうじて合格した。そんなとき、両親が死んだ。Hは、Oと一緒に慰めてくれた。特にHは、葬式のあと、親戚が集まって酒を飲んでいる場で、大きな声で春歌を歌い、チン○やマン○を連発した。親戚の手前、嬉しいやら恥ずかしいやらで、どういう顔をして良いのかわからなかった。初七日も終わり、僕は東京へ戻り、とりあえず芝居の稽古に身も心も集中させた。HとOと三人で、ケンカしながらも、あれこれと芝居について語ったりしていると悲しみから逃れることができた。スタニスラフスキーがどうの、メソッドがどうのと、演技論のようなものを闘わせたりもしたが、いくら偉そうに言っても、僕たちはそれぞれにどうしようもない問題があった。それは言語。僕は吃音ぎみでよく台詞に詰まるし、OとSは訛りがなかなか抜けなかった。そんな基礎中の基礎ができていないのだ。芝居をするのもおこがましい。それなのに、自己表現という、あきらかに他者と違う何かに関わっている自分たちに優越感を感じ、酔っていた。いま思うと、アホでしかない。そんなときHにいい役がついた。少年院の話の芝居で、主役グループのひとりに抜擢された