真夜中の虹

真夜中の虹(page 68/280)[真夜中の虹]

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68は限りがあり、ジャンルの幅も狭かった。仕方がないので、深夜バスに乗って、よく東京まで観に行った。六本木から西麻布へ向かう途中にある古いビルの地下に、劇団自由劇場はあった。「上海バンスキング」という芝....

68は限りがあり、ジャンルの幅も狭かった。仕方がないので、深夜バスに乗って、よく東京まで観に行った。六本木から西麻布へ向かう途中にある古いビルの地下に、劇団自由劇場はあった。「上海バンスキング」という芝居の千秋楽のチケットが偶然手に入り、生の吉田日出子を見ることができた。彼女の放つ芝居の色気にときめき、自分のやっている演劇とはまったく違うプロの表現に驚いた。こんな演劇があったんだ…。高校生では決して手の届かない表現がそこにあった。斉藤憐のオリジナル脚本に、串田和美の独特な演出、バランスの良い配役に、狭い空間を利用したシンプルな舞台美術。すべてが新鮮で、これまで観た演劇とはまったく違う都会的なセンスに溢れた作品だった。「演劇」で世の中を変えてみたい。世の中をまだよく知らない高校生が、あまりにも幼稚な考えをこの瞬間に持ってしまった。きっと「演劇」によって既成の何かを、いや、自分自身を壊したかったのだろう。舞台美術を通して「演劇」という表現に携わっていきたい。田舎の高校生はそう強く思った。一九八九年四月、日本大学芸術学部演劇学科舞台美術コースに入学。晴れて上京することになった。東京駅から山手線に乗って池袋へ出る。そこから西武線の各駅停車に乗って江古田駅で下車。