真夜中の虹(page 59/280)[真夜中の虹]
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概要:
59Sは一瞬ドキリとした顔を見せた。「……とりあえず東京に行こうと思う」「どうして?」「うちは双子だろ、兄貴は長男だからこっちに残ると思う。一度でいいからあいつと離れて暮らし....
59Sは一瞬ドキリとした顔を見せた。「……とりあえず東京に行こうと思う」「どうして?」「うちは双子だろ、兄貴は長男だからこっちに残ると思う。一度でいいからあいつと離れて暮らしたいんだ」「そうか…」「お前は?」「うん、オレもとりあえず上京しようと思う。そして芝居のスタッフがしたい」ほんの短い会話だったけれど、Sと将来の話をしたのはこのときが初めてだった。随分と遠回りをしたが、お互いこういう話がしたかった。その日から、魔のトライアングル地帯へ近づく回数は減り、Sと東京について話をする機会が増えた。あそこの大学に受かったらこの街に住もうとか、こっちの女子大は可愛い子が多いとか、あそこの街はおしゃれな感じがするとか等々、創刊して間もないポパイ(雑誌)をめくりながら妄想を膨らませていた。高校を卒業したら僕は東京へ出ていく。何もない名古屋を捨てて、仲のいいSと一緒に東京へ行く。なんとなくだけど、目標ができた。それは、生まれて初めて持つ「夢」のようなものだった。