真夜中の虹(page 38/280)[真夜中の虹]
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概要:
38稽古真只中の歳の暮れ。役を代わってもらうかどうするか、テレビを流し見しながら、もしもの事態を僕なりに考えていた。横になって頭を悩ませていると突然、「矢沢永吉ONEMAN30アーユー・ハッピー」という番組が始....
38稽古真只中の歳の暮れ。役を代わってもらうかどうするか、テレビを流し見しながら、もしもの事態を僕なりに考えていた。横になって頭を悩ませていると突然、「矢沢永吉ONEMAN30アーユー・ハッピー」という番組が始まった。画面には、五十三歳になった永ちゃんこと矢沢永吉と、彼と同い年の糸井重里が、お互いを褒め合い、それぞれの自慢話を自分勝手に喋っていた。初めて矢沢の歌をレコードで聴いたのは中学のとき。この世の中にこんなカッコイイ歌い方をする人間がいるなんてまったく知らなかった。背中がゾクッとし、そのままレコード屋に走り、LPを買った。コンサートやフィルム上映会にも頻繁に足を向け、そこでポスターやステッカーを買っては部屋の壁に貼っていた。当時はステージの矢沢を見るだけで胸がときめき、このまま死んでもいいと思った。そんな矢沢だったのに.テレビに映る姿を見ても、いまはまったく心が動かない…。僕が変わったのか、それとも矢沢が変わったのか……、きっと両方だろう。それでも矢沢の姿を目にすると、あの頃が蘇ってくる。田舎の高校生がロック歌手、矢沢永吉に出会ったあの頃が。一九七六年、「姉の死」という不幸を背負った我が家は、その悲しみに蓋をするように日々の暮らしを淡々と過ごしていた。