真夜中の虹(page 245/280)[真夜中の虹]
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245けにはいかない。見かねたスタッフの提案で、失敗した部分だけピックアップして、あとで撮り直すことになった。助監督の付けたヘッドフォンから監督の罵声が洩れてくるが、もうどうすることもできないの....
245けにはいかない。見かねたスタッフの提案で、失敗した部分だけピックアップして、あとで撮り直すことになった。助監督の付けたヘッドフォンから監督の罵声が洩れてくるが、もうどうすることもできないのだ。途切れ途切れで台詞を喋り、なんとか本番は終わった…。役者としていちばん恥ずかしい駄目な結果に、立っているのも辛かった。救われたのは、スタッフと共演者の人たちがキレずにいてくれたこと。みんないい人たちばかりで、何回しくじっても、嫌な顔ひとつしないで付き合ってくれた。その優しさが、よけいにこたえた…。駄目だ…もうやめよう…随分長いこと役者をやってきたけれど…周りに迷惑をかけるようになっては、もう駄目だ……。スタジオをあとにしたのは深夜一時半。朝から降り続いた雪はすでに止んでいた。後日、長女と少しだけ話をした。父はもう役者ができないと思う…。そう言葉にしたらなぜか涙が出てきた。好きで始めた仕事ではないけれど、二十年近く役者をやってきた。嫌な思い出の方が多いけれど、いい思い出もそれなりにあった。少しだけ感傷的になっていたのだろう、そんな父を娘は笑って見ていた。