真夜中の虹(page 236/280)[真夜中の虹]
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236入ってもらいます。そして、強制的に眠らせて心臓の治療をします」医者がそう言った。これじゃあ、夏に亡くなったミミちゃんと同じだ。ミミちゃんの姿を思い出し、思わず身体が強ばる。死が急に身近にやってきた....
236入ってもらいます。そして、強制的に眠らせて心臓の治療をします」医者がそう言った。これじゃあ、夏に亡くなったミミちゃんと同じだ。ミミちゃんの姿を思い出し、思わず身体が強ばる。死が急に身近にやってきた。良くないことばかりが頭を巡り、また眠れなくなった。抗生物質の点滴が、より一層強いものに替わった。強い抗生物質が効いたのか、随分と身体が楽になり、久しぶりに体を拭いてもらった。とても気持ちがいい。すっきりしたせいか、体温が数回三十八度台まで下がった。四十度を下回ると、ベッドで本を読む余裕も出てきたので、何か本を買ってきてくれと言うと、息子が『血と骨』(梁石日著)という小説を買ってきた。何もこんなときに、こんな重たい小説を買ってこなくてもいいのにと思ったが、その重たさにぐいぐい引っ張られ、疲れ果てるまで読んでしまった。日付が名古屋公演初日になった。ベッドにいる自分が悔しい。生まれて初めて仕事に穴を空けた。役者としての最後の舞台だったのに…、こんなかたちで二十五年の舞台生活に終わりを告げようとは、残念でならなかった。熱はようやく三十七度台になった。夜、舞台の演出家から電話がかかってきた。「熱が下がったのなら、二十七日の千秋楽には出られますかぁ?」ダメに決まっているじゃないか!あまりのおとぼけぶりに久しぶりに笑った。