真夜中の虹(page 209/280)[真夜中の虹]
このページは、電子ブック 「真夜中の虹」 内の 209ページ の概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると、今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
209ユリちゃん!そんなに走ったら危ないよ!聞こえているのかいないのか、彼女はどんどん山を下っていく。まるで、彼女に降りてきている万葉時代の歌人が彼女をどこかに誘導しているようだった。道を熟知しているかの....
209ユリちゃん!そんなに走ったら危ないよ!聞こえているのかいないのか、彼女はどんどん山を下っていく。まるで、彼女に降りてきている万葉時代の歌人が彼女をどこかに誘導しているようだった。道を熟知しているかのように彼女はスイスイと草木をかき分け、薮の中を迷いもなく走っていく。僕はだんだん不安になってきた。早く捕まえないとこのままではふたりとも三輪山で遭難してしまう。加えて彼女は万葉歌人。万葉歌人とふたりきりで迷子になるのはちょっと勘弁して欲しい。早く追いつかなくては…。しかし、どんなに早く走っても追いつかない。ああ、もうだめだ!もう走れない!そう思ったときだった。彼女のスピードが急に落ち、ピタリと足が止まった。つんのめるようにして、こっちも止まった。目の前に、突然小さな磐で構成された半径5メートルくらいの磐座群が出現した。時空を越えた万葉の歌人が、彼女と僕をここに案内した…。でも何のために…。僕たちはしばらくの間、そこに立ち尽くしていた。磐座の方から流れてくる清らかな風が、身体の中を吹き抜け、草木を撫でていく。そのままそれに身を任せていると、なぜだか寂しさが込み上げてきた。人が人を裏切った思いがこの場所から伝わり、人の恨みや悔しさ、そして生きる虚しさがこ