真夜中の虹(page 205/280)[真夜中の虹]
このページは、電子ブック 「真夜中の虹」 内の 205ページ の概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると、今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
205がら「お守りにするよ」と言った。娘たちにとっては、いい形見分けになった。さあて、明日からまた頑張って生きていかなくては。そう自分に言い聞かせ、大きく伸びをした。ふと、庭の木が伸び放題になっているの....
205がら「お守りにするよ」と言った。娘たちにとっては、いい形見分けになった。さあて、明日からまた頑張って生きていかなくては。そう自分に言い聞かせ、大きく伸びをした。ふと、庭の木が伸び放題になっているのに気がついた。ここはひとつ庭もさっぱりしますか。知り合いのJに電話を入れた。「また、植木屋の松崎さんに庭の木を切って貰いたいんだけど頼んでくれるかな」「わかりました。折り返し電話します」Jからの折り返しはすぐにあった。「あのー、いま、松崎さんのところに電話したんですけど、実は、今朝、松崎さんが亡くなったそうなんですよ、松崎さん喉頭ガンだったらしくて…」電話の向こうのJは少し混乱しているようだった。僕は受話器を握りながら、再び心がゆっくりと空っぽになっていくのを感じていた。※追記Jというのは、以前演出したふたり芝居に出演した男で、今は放送作家をしている。そのとき共演したのが佐藤君という青年。彼は二〇〇〇年夏、猛暑の中、世田谷のアパートの一室で溶けて亡くなった。人間の肉体が猛暑で溶けることを初めて知った。人は「寂しい死」と言うが、死に寂しいもへったくれもない。ばあちゃんの死も、佐藤君の死も、死は死であって、それ以外の何ものでもなかった。