真夜中の虹(page 191/280)[真夜中の虹]
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概要:
191第三八話「水晶」石鎚山の天柱石参拝は大変だった。総勢約二十名の参拝集団は、早朝八時、石鎚山中腹にある山小屋宿舎を出発した。天柱石までの道は、人がやっとひとり歩けるぐらいの山の稜線を片道四時間かけ、....
191第三八話「水晶」石鎚山の天柱石参拝は大変だった。総勢約二十名の参拝集団は、早朝八時、石鎚山中腹にある山小屋宿舎を出発した。天柱石までの道は、人がやっとひとり歩けるぐらいの山の稜線を片道四時間かけ、ひたすら歩く。道の片側は断崖絶壁、落ちたら命はない。それだけで修行のようなものだった。でも、その断崖に足を滑らせた人がいた。その人は有名な歌人のおばさんだった。おばさんは、僕の五人ぐらい前を歩いていた。スタートしてから約三十分、靴の紐がはずれたらしく、その人はひょいとしゃがみ込んだ。靴紐ぐらいしっかり結んでおけよ!と思う間もなく、バランスを崩し谷底に真っ逆さま、まるでスローモーションのようにゆっくりと僕の視界から消えた。ああ、もうだめだ。はるか下方で血だらけに倒れているおばさんを想像した。しかし次の瞬間、たすけて?、と下方から声が聞こえた。ひょいと崖下をのぞくと、木の枝に引っ掛かったおばさんが手を振っている。よかった…、大事には至らなかったようだ。木に引っ掛かったおばさんは、元山岳部の人たちがザイルを使って無事救出。幸い擦すり傷程度ですんだので、これも神の御加護と拍手をしている人もいたが、僕は、馬鹿馬鹿しい!シャレにならない!気