真夜中の虹

真夜中の虹(page 19/280)[真夜中の虹]

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概要:
19よ、浮気なんかするわけないじゃない、とアピールしているようにも見えた。母と僕は病院へ行く度、診察室ではなく、その先生のプライベート・ルームに通された。その部屋には大きなソンブレロと大きなダブルベッド....

19よ、浮気なんかするわけないじゃない、とアピールしているようにも見えた。母と僕は病院へ行く度、診察室ではなく、その先生のプライベート・ルームに通された。その部屋には大きなソンブレロと大きなダブルベッドがあった。母が診察を受けている間、僕は若い看護婦さんたちと一緒に病院のプールに入ってよく遊んだ。若い看護婦さんの中にひとりだけ僕を異常に可愛がってくれる人がいて、僕がプールから上がるといつもタオルを広げて待ち構え、プールの水で縮こまった僕のオチンチンを口に含んで温めてくれた。いまから思うと、この看護婦さんも相当変な人だ。とにかく母は僕を連れて週に何度も病院へ行き、情事を重ねた。そんなある日、母と僕が病院から帰ると、いつもは帰りの遅い父がひとり台所のテーブルに坐っていた。あまり酒に強くない父はなんだか少し酔っているようで、すでに顔が赤くなっていた。母は何も言わずに夕食の支度を始め、父も何も語らず、ビールを口に運んでは虚ろな目をどこかどこでもない場所に向けていた。僕は子供ながらもなんとなくふたりの間を流れる歪んだ空気を察し、余分なことは言わないようにジッと坐っていた。そう、まるで何かが通り過ぎるのを待つようにジッと……。その日を境に母は病院には行かなくなり、僕もそこでの話は忘れようとした。あの日、僕が感じたことは、父と母が男と女であることと、何も語らずにすべてを語ることだった。