真夜中の虹(page 167/280)[真夜中の虹]
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概要:
167第三二回「漢方」とうとう自分で自分のことがわからなくなった。自分はいったい誰なのだろう…。この世の中に何のために生まれ、何のために生きているのだろう…。そんな根元的な疑問を、来る日も来る日も....
167第三二回「漢方」とうとう自分で自分のことがわからなくなった。自分はいったい誰なのだろう…。この世の中に何のために生まれ、何のために生きているのだろう…。そんな根元的な疑問を、来る日も来る日も考えるようになった。これはまずい。気を紛らわそうと、たくさんの本を読んだ。稲垣足穂、金子光晴、南方熊楠、澁澤龍彦、寺山修司、深沢七郎、三島由紀夫、平野威馬雄、山田風太郎等々。これがまたまずかった。本を読んだら悩みに拍車がかかってしまった。当たり前だ、作家なんてものは、皆どこか病んでいる。そんな人たちの作るものを病んでいるときに読んだら、どんどん深みに嵌まっていくだけだ。頭の中がにっちもさっちもいかなくなり、妻のすすめで、大井町線沿いにある漢方薬局を訪ねることになった。その薬局は駅から歩いて十分、小さな商店街の奥にあった。随分と繁盛しているようで、店の外まで人の行列ができていた。最後尾に付いて順番を待つ。薬局で並んだのは初めてだった。ひょっとしたら治るかもしれない…、いや、どうせ商売だからうまいこと言って高い薬を売りつけるんじゃなかろうか…、期待と不安が交錯する。