真夜中の虹

真夜中の虹(page 165/280)[真夜中の虹]

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165わけのわからない叫びが扉の向こうから聞こえ、僕は恐怖で震えた。回診が終わり、中に入ると彼女が、「家に帰りたい…」と呟いた。なんとか助けてあげたい…。そう思えば思うほど、自分の無力さと勇気のなさが心....

165わけのわからない叫びが扉の向こうから聞こえ、僕は恐怖で震えた。回診が終わり、中に入ると彼女が、「家に帰りたい…」と呟いた。なんとか助けてあげたい…。そう思えば思うほど、自分の無力さと勇気のなさが心の中で大きくなり、胸を締め付ける。僕の精神はさらに深い闇の中に落ちた…。何もできないまま、病室をあとにして外に出た。深く深呼吸をしてみるが、心臓のバクバクが邪魔をして、息がうまく吸えなかった。それからの日々は酷ひどかった。神経がささくれ立ったまま、落ち着きのない動物のように部屋を彷徨し、昼夜の境がなくなり、まったく眠れなくなった。人間には、気分が塞げば塞ぐほど、どんどんマイナスの要因を呼び込む癖がある。ある日、家でゴロゴロしていたら、カーペットの端のほつれが異常に気になった。カッターナイフをあて、刃先をゆっくり動かし、細かいほつれを処理していると、なかなか切れない一房があった。仕方がないので思い切り力を入れ、手前にグッと刃を引いた。ザクッ!刃が手首にくい込み、血がピューッと弧を描いた。その飛び方が実に美しく、血は上に飛ぶのだということをそのとき知った。白いパジャマが赤く染まり、血の臭いが鼻を突く。慌てて救急車を呼び、病院で治療を受けた。