真夜中の虹(page 156/280)[真夜中の虹]
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156第三〇話「痣」欽ちゃんの番組をクビになった僕に、次に来た仕事は舞台だった。場所は日生劇場。期間は一カ月。出し物はヘレンケラーとサリバン先生の愛と感動の名作「奇跡の人」。主演は天才女優、大竹しのぶ。....
156第三〇話「痣」欽ちゃんの番組をクビになった僕に、次に来た仕事は舞台だった。場所は日生劇場。期間は一カ月。出し物はヘレンケラーとサリバン先生の愛と感動の名作「奇跡の人」。主演は天才女優、大竹しのぶ。それまでは定員二百名、公演期間はせいぜい一週間、出し物はアングラ、そんな舞台しか経験してこなかった僕にとっては、すべての面でスケールが違っていた。困ったことになったと、人に会う度に嘆いていた。困ったことのひとつに舌の問題があった。僕の舌は普通の人よりもはるかに短い。舌と歯茎の台をつなげる部分、いわゆる舌ぜっしょうたい小帯が、普通は舌のつけ根に付いているのに、舌先に付いている。ものすごく喋り辛く、焦って喋るとすぐに吃どもってしまう。どれくらい喋り辛いかというと、まずラ行がうまく言えない。舌が回らず、「ラクダ」と言っているつもりが「ダクダ」にしか聞こえない。次に早い台詞回しが言えなくて、カミカミになってしまう。なので、すごくゆっくり台詞を言わないと、何を言っているのかわからない。また、長いセンテンスの台詞などは途中で停めながら喋らないと意味が伝わらないので、どうしてもきれぎれのぶつぶつぼそぼそ喋りになってしまう。