真夜中の虹(page 139/280)[真夜中の虹]
このページは、電子ブック 「真夜中の虹」 内の 139ページ の概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると、今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
139に、僕の演技も独りよがりで空回りしていた。ヒットすることもなく、監督が所属するプロダクションも製作の一部を請け負っていたので、かなりの借金を背負うことになった。そして同じように、監督にズタズタにさ....
139に、僕の演技も独りよがりで空回りしていた。ヒットすることもなく、監督が所属するプロダクションも製作の一部を請け負っていたので、かなりの借金を背負うことになった。そして同じように、監督にズタズタにされた僕の精神も、かなりのダメージを負った。それでも監督に初めて演出された日のことを忘れることはできない。生まれて初めて「お前、人生何やってきたんだ」と言われ、「愛とは何だ」と突きつけられた。ひとりの天才監督に、ひとりの若者が惚れ込んだ瞬間だった。それから四年。天才監督はある女優の家で首を吊った。※追記この映画で憧れの吉田拓郎と共演をした。現場での彼は終始不機嫌そうだった。それから数年後、拓郎夫人の森下愛子さんとマネージャーが同じという縁で、コンサートを観た帰りに楽屋に寄らせて貰った。ステージを下りたばかりの彼はとても素敵な顔をしていた。矢沢の歌は、いまはもうほとんど聴くことはないけれど、拓郎の歌はいまだに聴いている。東日本大震災があった二〇一一年、拓郎はオールナイトニッポンの中で「春を待つ手紙」(一九七九年発売)をアコースティック一本で歌った。この曲は、一組の男女の有り様を往復書簡という形にしたラブソングだ。被災者に向け、多くのミュージシャンが歌のメッセージを贈ったが、その中でもこれがいちばん良かった。瓦礫の中でのラブソング。人はどんなときでも恋をする。そして拓郎はどんなときでも、やっぱり拓郎だった。