真夜中の虹

真夜中の虹(page 138/280)[真夜中の虹]

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138「オッ、ケー!よくやった!」転がるように駆け下りる背中に監督の声が聞こえた。やったー。OKだ!また涙がボロボロとこぼれた。「おい!寿司食いに行こう」遠くで監督が言った。すぐに返事ができず、しゃがみこんで....

138「オッ、ケー!よくやった!」転がるように駆け下りる背中に監督の声が聞こえた。やったー。OKだ!また涙がボロボロとこぼれた。「おい!寿司食いに行こう」遠くで監督が言った。すぐに返事ができず、しゃがみこんで泣いた。涙は寿司屋に入っても止まらなかった。監督は目を合わすことなくジッと酒を口に運んでいる。横に座った僕は、寿司に付けた醤油が口内の傷に染み込む度、うっと小さく呻いた。「もう一日あれば、もっといいのが撮れたよきっと」まだ満足してないんだ…。表現に対する監督のどん欲な姿勢に胸を打たれた。この人についていこう。その日を境に監督、河合義隆の信者になった。監督の言うことに耳を澄ませ、監督の言う通りに動いた。ものづくりは、ある意味集団幻想だ。時として監督は神であり、役者はそのしもべとなる。その方が現場はうまく回るし、スケジュールは潤滑に進む。その幻想の中に自分を置いていると、すごく楽だ。しかし楽しい時間はそう長くは続かない。映画という集団幻想にも終わりは必ずやってくる。やがて秋が訪れ、楽しかった撮影も終わりを告げ、スタッフもキャストもそれぞれ、次の現場に散っていった。出来上がった作品は、面白い作品にはならなかった。あんなに監督に付き合ってもらったの