真夜中の虹(page 129/280)[真夜中の虹]
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概要:
129撮影スケジュールは遅々として進まなかった。妥協のないこだわりの演出。細部にわたり演技の注文がつき、自然とリハーサルが長くなる。それに加え、監督とカメラマンが映画初心者。そんな現場で物事が潤滑に進む....
129撮影スケジュールは遅々として進まなかった。妥協のないこだわりの演出。細部にわたり演技の注文がつき、自然とリハーサルが長くなる。それに加え、監督とカメラマンが映画初心者。そんな現場で物事が潤滑に進むわけがない。スケジュールはどんどん延び、前日にならないと次の日の撮影の予定がたたない状況になっていた。助監督に訊いても、出番の日がわからない。仕方がないので、いつ呼ばれてもいいように準備だけはして、毎日緊張しながら出番を待っていた。緊張していたのにはわけがあった。なかなか出番がやってこない僕は、制作部の作った「談話室」という憩いの場で、日中のほとんどの時間を潰していた。そこにいるといろいろな情報が入ってきた。伝え聞く監督の演出は、どれも鬼のような厳しい話ばかりで、以前撮ったテレビドラマでは、1カットで100テイクも重ねたというし、またある番組では、監督のあまりの粘りに女優が壊れ、楽屋の鏡に口紅で台詞を突然書き始めたという。そんな噂話ばかりが日々入ってくると、次第に妄想が膨らみ、現場に行くのが怖くなった。もう東京に帰りたい…、すでに心は現実から逃げようとしている。福山に入って一週間が経った。突然、部屋の戸が少しだけ開いた。「明日、撮るよ。ちゃんとした顔で、現場に入れよ」戸の隙間から顔だけを突き出し、監督がそう言った。