真夜中の虹(page 108/280)[真夜中の虹]
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概要:
108良くないことの数だけ、人間には良きことがあるという。かけがえのない生き物が、いまここにある。忘れかけていた、「幸せ」という気持ち。それがいま、僕の身体を包み込んでいる。「幸せ」はいつか逃げていく…....
108良くないことの数だけ、人間には良きことがあるという。かけがえのない生き物が、いまここにある。忘れかけていた、「幸せ」という気持ち。それがいま、僕の身体を包み込んでいる。「幸せ」はいつか逃げていく…でも、いまはこの「幸せ」を大事にしたい。初めて持つ「家族」。喜びの裏には、もちろん不安もある。ちゃんと家族を食べさせていく責任が重くのしかかる。それでも、家族を失った男が、家族を持った喜びは大きかった。子供の名前は、映画好きに因み、子嶺麻(シネマ)と付けた。一九八四年四月十四日。念願の長女が生まれた。※追記ここに出てくるYさんは、俳優の山田辰夫さんで、二〇〇九年七月に亡くなった。五十三歳だった。最後にお会いしたのは、たしか二〇〇六年の石井聰互監督作品集のDVD化のイベントだった。あまり話すこともなく、ただ挨拶を交わすだけだった。彼は昔と変わらない距離感で接してくれたが、こっちはそれにうまく対応できなかった。彼の時計は昔のままで、私の時計はすでに壊れていたのだ。そういえば、婚姻届の保証人欄にサインをしてくれたのは彼だった。それなのに葬儀にもお別れの会にも行く気にはなれなかった。劇団をやめたときに、彼との縁はすでに終わっていたのだと思う。もう会うこともないし、会えない。そんな縁だったと現在は思っている。