真夜中の虹(page 100/280)[真夜中の虹]
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100第一八話「血筋」両親の死からちょうど一年後、母方の祖父が死んだ。一年前、両親の葬式の前日、東京から名古屋に来ていた祖父は、急に具合が悪くなったと言って東京へ戻った。姉が死んだときもそうだった、葬式....
100第一八話「血筋」両親の死からちょうど一年後、母方の祖父が死んだ。一年前、両親の葬式の前日、東京から名古屋に来ていた祖父は、急に具合が悪くなったと言って東京へ戻った。姉が死んだときもそうだった、葬式の前の晩、これまた急に具合が悪くなり東京へ帰っていった。周りの人は、気が小さいのねと言う。けれど、僕はそうは思わない。祖父はきっと、身内が死んだという事実を素直に受け止めることができなかったのだと思う。人の死を心の中で溶かしてゆくには時間が必要。突然身体に入れると、確実にノッキングを起こす。何もかも一度に消化しようとする方が間違っている。その頃はよくわからなかったが、いまとなってはわかる。まともに「死」というものに向かっていくと、結局わけのわからないものに跳ね返されるのだ。だから祖父のように緊急避難をするのも、それはそれでひとつの方法だと思う。僕は祖父となんとなく似ているかもしれない。僕も両親の死に顔を見ることができなかった。生きているときの顔と、あとは骨になってからの姿しか知らない。「死に顔」という、どう対処していいのかわからないものとは関わりたくない。というより怖い。祖父が焼き場に行きたくないのと同じで、それは気が小さいということではなく、自己防衛本能なのだと思う。